会計税務から読み取る
フィンテック②
フィンテックのテクノロジーが資本主義におけるプレイヤーの構図を大きく変えてしまう可能性があります。これまで世界の資本主義が発展してきた裏側には、金融機関が実体経済を支配していると言われ、富と権力を手にしてきましたが、フィンテックはその構図を破壊するとも言われています。今回はその中で、中小企業に与えるフィンテックの影響を考えてみます。
*フィンテックとは、「ファイナンス(Finance、金融)」と「テクノロジー(Technology、技術)」の2つの言葉を融合して作られた言葉です。
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フィンテック②
フィンテックのテクノロジーが資本主義におけるプレイヤーの構図を大きく変えてしまう可能性があります。これまで世界の資本主義が発展してきた裏側には、金融機関が実体経済を支配していると言われ、富と権力を手にしてきましたが、フィンテックはその構図を破壊するとも言われています。今回はその中で、中小企業に与えるフィンテックの影響を考えてみます。
*フィンテックとは、「ファイナンス(Finance、金融)」と「テクノロジー(Technology、技術)」の2つの言葉を融合して作られた言葉です。
経済産業省の2017年版中小企業白書によると、2008年のリーマンショック以降、大企業の経常利益は大きく改善している一方で、中小企業の伸びはそこまで大きくなく、格差が拡大しています。ここには、中小企業の「新規開業の停滞」や「生産性の伸び悩み」などが挙げられています。フィンテックをはじめ各種テクノロジーの利用は、会計をはじめとする間接業務での革新的な業務改善への可能性や、新たな資金調達方法によって、これまでは考えられなかった開発や設備投資にもチャレンジできるなど、その打開策となる可能性があります。
一方で、テクノロジーはその進歩が著しくなっています。しかし、マスコミに取り上げられるテクノロジーが果たして企業の現場で従業員や経営陣が万能に使えるのか疑問が残ります。例えば、自動車の自動運転が普及した場合、タクシーの運転手はいらなくなるという話があります。この自動運転のレベルは5段階で評価されますが、レベル1を搭載している車は全体として1%にも満たない状況です。フィンテックの技術も同様のことが言え、夢のような技術であると騒がれ、フィンテックが業務改革につながるように謳っていながら、実態として現時点ではそこまで業務改革を完璧に行えるものには至っておらず、導入率も低い結果となっています。多くの人が本当に使える技術になるまでは、あと数年かかるでしょう。
中堅・中小企業のフィンテック導入には決済・送金、財務管理、仮想通貨、融資等といった分野が考えられます。まず身近なところからフィンテックに親しみ、徐々にフェーズを上げ、本格実用が到来したときのロケットスタートに備えましょう。
1. フィンテックをプライベートで使ってみる
操作が簡単なスマートフォンのアプリを用いて、実際にお金を動かしてみましょう。例えば、「デジタル通貨を買ってみる」「AIアドバイザーの指示に従って株式投資をしてみる」「家計簿アプリなどで預金口座情報をダウンロードしてみる」「会費の回収をP2P送金(オンラインでのキャッシュレス送金)によって個人間で送金をしてみる」などです。
2. 日常業務で使ってみる
業務で発生するお金のやり取りをフィンテックで処理します。例として、「交通費などの決済を交通系ICカードで決済してみる」「スマートフォンやタブレットパソコンを顧客の代金決済の決済端末として利用する」などが挙げられます。代金決済については、高価な決済端末(POSレジ等)を低額導入できるうえ、専用デバイスとアプリを活用すればPOSシステムに匹敵する機能を持てるため、コスト削減や省スペース化が狙えます。
3. 経営基幹に組み込む
新規事業や新商品などの支出にかかる資金調達を、クラウドファンディング(アイディアやプロジェクトの起案者がインターネットを通じて支援者から資金を調達する)やP2Pなどで募集してみます。ウェブ上に資金調達したい内容を載せ、個人などから出資や借入を募集することができます。
4. フィンテックを開発する側に回る
これまで金融業界にかかるシステム開発は大手ITベンダーの独壇場でした。しかしフィンテックでは、API(ソフトウェアの機能共有)によってシステムのパーツ市場ができ始めるなど、スタートアップ企業においても参入障壁が低い分野となっています。その開発アイディアや技術は認められれば、高値で売り抜くこともできます。
世界の人口の約1%が、世界の富の半分以上を占めていると言われています。この構図と同じく一部に集中しているのが金融サービスです。また、世界の人口約70億人のうち、約35億人が預金口座を持っておらず、約50億人は銀行からの融資サービスを受けられない状況にあると言われています。
資本主義はお金がお金を引き寄せ、生活を豊かにするものです。フィンテックは従来の銀行サービスが受けられず、資本主義から遠ざかってしまった人たちにお金を行き届かせ、その生活を大きく変えられる可能性があります。これと同様のことがビジネスにも言え、優れたビジネスアイデアや技術力があっても、その資金調達が叶わずに成長を阻まれていた中堅・中小企業にも新しいチャンスがあることを意味しています。
[執筆者]
上田 智雄 (うえだ ともお)
1975年生まれ。税理士。いっしょに税理士法人(渋谷区恵比寿)代表社員、デルソーレ・コンサルティング株式会社 代表取締役。主な監修本に、『納税で得する一覧表』、『取り戻せる税金一覧表』、『人生の節目の書類書き方教えます』(以上、サプライズBOOK)などがある。