2018年冬号特別連載コラム第8回

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2018年冬号 特別連載コラム　第８回
増税で国税当局は監視をさらに強化
告発が増える消費税の脱税脱税しない意識と環境づくりを

増税で国税当局は監視をさらに強化
告発が増える消費税の脱税
脱税しない意識と環境づくりを

国税当局は目を光らせる項目として、常に消費税をトップに掲げています。昨今、企業では消費税の納付額が多額になってきているため、その負担を避けようと悪質な脱税者を生み出しかねない状況もあり、増税によって“監視の目”はますます厳しくなってくるはずです。また政界では、日本の将来を大きく左右する消費税の増税論争は熾烈をきわめるなど、消費税関連の問題は社会的関心の高い分野です。そのような背景もあり、国税当局はその取り締まりにおいて、手柄を挙げることに意欲的です。今回は増税のリスクとその対応について考えます。

消費税の脱税・国税当局の動きについて近年の動向・傾向を把握しましょう。
脱税に対する罰則を確認し、企業や社会、生活に与えるリスクや影響を確認しましょう。
増税に向け、法令順守違反となる脱税対策を企業で話し合いましょう。

増加傾向にある脱税告発件数目を光らせる消費税の脱税

増加傾向にある脱税告発件数
目を光らせる消費税の脱税

　脱税とは、納税義務がある者や企業・団体などが、その義務の履行を怠り、納税額の一部あるいはすべてをのがれることを言います。脱税と節税の線引きを誤り、脱税行為で告発されるケースもあります。
　脱税行為が告発された場合、大々的に報道されるなど、実はとても重い罪が科せられ、悪質な脱税者に対しては刑事責任の追及がなされます。国税庁では、その責任追及で生じさせたい効果（知らしめる）を「一罰百戒の効果」と表現しています。一罰百戒とは、一人の罪や過失を罰することで、他の多くの人々が同じような過失や罪を犯さないよう戒めることを意味し、見せしめの効果も狙っています。
　国税庁発表の報告によると、2016年に国税当局が脱税を告発した件数は、消費税や他の税目も含め100件あり、すべてに有罪判決が出され、そのうち14人は実刑判決が出されています。そして実刑判決の中で最も重い罪として懲役14年が言い渡されました。特に消費税に関しては、国税当局の積極的な取り組みもあり、2016年は過去最高の告発件数（23件）を記録しました。
　脱税者は、脱税で手にした資金の多くを現金、預貯金、有価証券、FXの証拠金（契約成立時に履行を確実にするための担保として預ける金銭）として残しているようですが、中には居宅、高級外車、高級腕時計、金塊、競走馬、異性への援助金、ギャンブルなどに使っているケースもあるそうです。
　また、脱税が発覚するのは、もちろん税務調査で見つかることも多いですが、次のようなケースもあります。

Case❶ 資産状況から見つかる

　国税当局は、土地建物や預金、株式などの取得情報を見ることができます。収入として申告しているものが少ないにも関わらず、多額の資産を持っているとなれば、その原因を調べることになります。

Case❷ 密告により見つかる

　別れた配偶者・恋人、辞めた従業員などから「あの会社はこうやって税金をごまかしている」と情報を流されるケースがあります。そこに怨恨や妬みの感情が加わっている場合は、情報も詳細で信憑性も高いものとなり、国税当局も確信的に動くこととなります。

　国税当局も限られた労力の範囲内で業務を行っており、24時間すべての行動を把握しているわけではありません。よって、脱税を考えた時は、「見つからないから大丈夫だろう」と思っていても、そのほころびは意外なところから露呈されていくのです。「嘘はいつかはバレる」と思っておいたほうがよいでしょう。脱税は犯罪です。誘惑に負けず、罪である認識をしっかり持つことが大事です。
　脱税が発覚すると、本来払うべき税金のほかに、過少申告加算税（税金を過少に申告したことに対するペナルティ）などの各種加算税、延滞税、重加算税（仮装隠蔽の事実があるときに課される追加課税）、そして罰金が科せられ、その合計額は大きく膨れ上がり、元々の脱税額の2倍を超える支出を強いられることがあります。
　このように、脱税はその手にした資金はすべて没収されるとともに、様々な支払いが発生するため、それらを支払う原資がなければ、自己破産や倒産せざるを得なくなってしまいます。また、一連の不正が報道されてしまったり、前科がついてしまうこともあるため、その後の社会生活での制約を余儀なくされてしまうのです。一時的に金銭を手に入れても、その代償は計り知れません。

支払いたくない心理が生む脱税消費税は“預かりもの”である

支払いたくない心理が生む脱税
消費税は“預かりもの”である

　人は誰でも、「損するリスクを回避したい」という心理を持っているものです。脱税者の多くが、その手にした資金を手元に残していることから、「（今は急を要する支払いなどもないし、）特に使う目的もないけど、一度手にしたお金を税金として支払うのは損になる」という感情が発生しているのだと思います。
　企業は利益を出し、わずかでも資金が残るように日々苦労を重ねています。脱税者は、消費税の支払いは義務であり、社会に役立つものと理解したとしても、いざ目先で多額の消費税を納付する場面になると「支払いたくない」という感情が一瞬でも頭をよぎってしまった人たちです。特に危ういのが、ワンマン経営者などで、個人の感情の揺らぎが行動に直結しまいがちです。こういった企業は経営者の声が絶対という場面も多いので、従業員がその指示に従わなければならず、脱税につながってしまうこともあります。

　企業マネジメントにおいてリスク対策は重要な課題です。企業のリスクは、災害、情報漏えい、長時間労働問題、品質チェックの不備など、数えきれないほどの項目があります。その中で当然ながら「法令順守違反」となる脱税行為は対策が必要不可欠であり、社内で不正を訴えられる環境づくり、見て見ぬふりをさせない社風づくりが求められます。
　一番の対策は、納税について自ら納得し、感情・知識を整理しておくことです。ポイントは次のとおりです。

①	消費税の構造をしっかり理解しましょう。消費税はあくまでも、お客様からの預かりものであり、決して自分のお金ではないと認識することが大切です。

②	お客様から消費税を現時点でいくら預かっていて、それをいつ払うのか把握しておきましょう。事前に心構えを準備し、シミュレーションを行うとよいでしょう。

成功した経営者に「損して徳取れ」とよく口にする人がいます。目先の損得に心をとらわれない、誠の道の実践が末永い繁栄につながるはずです。納税についての正しい意識を持って活動していきましょう。

■執筆者　上田智雄(うえだともお)
1975年生まれ。税理士。いっしょに税理士法人（渋谷区恵比寿）代表社員、デルソーレ・コンサルティング株式会社代表取締役。主な監修本に、『納税で得する一覧表』、『取り戻せる税金一覧表』、『人生の節目の書類書き方教えます』（以上、サプライズBOOK）などがある。