2019年春号特別連載コラム～キャッシュレス化加速への対応①　ソフトバンク孫氏に見える未来～

2018年12月4日、実店舗でのキャッシュレス決済を行うＰａｙＰａｙの「100億円あげちゃうキャンペーン」が話題になりました。ＰａｙＰａｙで決済をすると「20％還元」され、さらに「40回に1回はくじ引きで全額返還」と、消費意欲を大いに刺激される内容でした。開始直後から注目され、当初4か月をキャンペーン期間としていましたが、わすか10日間で還元額100億円に達し、終了となりました。
20％の還元や100億円というスケールの大きさで注目を集めた、決済アプリユーザー獲得キャンペーンですが、この出てきて間もない決済サービス事業が、100億円という巨額な広告宣伝費を投下して回収できるようなビジネスに発展するのだろうか？と疑念を覚えた方もいらっしゃるのではないでしょうか？
日本銀行発表による2017年の日本の電子マネーによる決済金額は、5兆1,994億円。決済金額は今後ますます拡大していくと思われます。
ＰａｙＰａｙは稀代の天才投資家と呼び声の高い孫正義氏が率いるソフトバンクグループの関連会社。キャッシュレス決済時代の到来を見据えた勝負勘があったのでしょう。

キャッシュレス化とは

ここで言うキャッシュレス化とは、私たち個人が実店舗で支払うときに、現金で行う事を指します。お金を支払うということであれば、例えば会社間での送金や海外送金などの様々な場面がありますが、実はそのほとんどがキャッシュレス化になっているのです。キャッシュレス化が進んでいないのは、実店舗での支払いの場面となります。

キャッシュレス化を目指す日本

　世界各国のキャッシュレス決済比率を見ると、キャッシュレス決済が進展している国では40～60％台であるのに対して、日本は18.4％にとどまっています。
　経済産業省が2018年4月に発表した「キャッシュレス・ビジョン」では、2027年までにキャッシュレス決済比率を40％程度とすることを目指すとしています。加えて、世界最高水準を目指すのであれば、70～80％のキャッシュレス決済比率を目指すべきではないかという声や、さらにはキャッシュゼロになって初めて実感できるメリットもあると思われることから最終的には100％を目指すべきだという意見もあるようです。

　その理由としては、今後、日本においては少子高齢化による、労働者人口減少の時代を迎え、大きな課題である国の生産性向上にキャッシュレス決済が必要要素と考えているからです。例えば、キャッシュレス化によって現金輸送のコストを減らせたり、実店舗でのレジの無人化や省力化、外国人観光客を誘致できるといった意図があります。
　また、2019年には「ラグビーワールドカップ」が地方都市を中心に全国12都市で開催され、さらに2020年には東京オリンピック、パラリンピックが開催されます。例えば、当該開催都市の一部を「キャッシュレス特区」として、大会期間およびその前後の一定期間を対象にスポンサーや支払いサービス事業者が協力して、キャッシュレス環境をつくりあげるといったことも検討されています。

消費税増税対策

　加えて、2019年10月より消費税の増税が予定されています。
　消費税は8％から10％へと、２％の引き上げがなされますが、この増税に合わせて、キャッシュレス決済をおこなった消費者に対しては、増税後の2019年10月～2020年6月までの9か月間については、購入額の2～5％を還元することを検討しているとのことです。
　ここで5％の還元がなされるのであれば、キャッシュレス決済をしない手はないでしょう。

ポイント還元率

中小企業や個人経営の商店や飲食店	5％の還元
大手チェーン店のFC加盟店	2％の還元
金券、自動車、住宅、医療サービス	なし

ポイント還元率

中小企業や個人経営の商店や飲食店	5％の還元
大手チェーン店のFC加盟店	2％の還元
金券、自動車、住宅、医療サービス	なし

日本人は世界でもっとも預金が好き

　日本人の家庭にある金融資産を合わせると1,829兆円あるといわれています。そのうちの52.5％が貯金されています。これに対して、アメリカは13.1％、ユーロ圏が33.0％となっています。比率でいうとアメリカの4倍、ユーロ圏の1.6倍となっており、ずば抜けて高い数字です。

　この理由も、私たちは小さいころから「無駄遣いをしないで貯めておきなさい」と親から教えられてきたという慣習的なことも大きいでしょうし、またアメリカでは証券投資のなかで手堅いと考えられる米国債でも金利が3％を超えていることから、投資を進めている点もあるかと思います。

ただ、この金融資産のうち52.5％を占める現金・預金960兆円があるという事実だけをみると、この眠ってしまっている現預金が有効に働けば、経済や家計にとってもプラスにはたらく可能性があり、ひいては日本がデフレからの完全脱却につながることもあるかもしれません。

これまで、日本は世界のキャッシュレス化の波に乗り遅れてきました。しかし、この2019年以降は好むと好まざるにかかわらずキャッシュレス化は進んでいくと考えられます。現金が消える未来の生活を先取りをするなら、早めに取組まれる事がポイントかもしれません。

■執筆者　上田智雄(うえだともお)
1975年生まれ。税理士。いっしょに税理士法人（渋谷区恵比寿）代表社員、デルソーレ・コンサルティング株式会社代表取締役。主な監修本に、『納税で得する一覧表』、『取り戻せる税金一覧表』、『人生の節目の書類書き方教えます』（以上、サプライズBOOK）などがある。