日本の財政が大幅赤字と言われていることは、ビジネスパーソンであれば誰もが知るところです。その財政赤字のきっかけは、1973（昭和48）年1月に創設された第2次田中角栄政権が行った「高齢者医療費無料化」と分析する見解があります。この制度の創設をきっかけに高齢者の病院利用が増え、老人医療費は急増の一途をたどることになりました。その後まもなく日本は高度成長期の終焉を迎え、税収も減り続け、財政赤字に移行していったのです。
　2018年9月15日現在の推計で、65歳以上の人口は3,557万人で、2045年には3,919万人となると予想されています。近い将来、高齢者の医療費、年金、介護費用などを生産年齢人口5,584万人のみで支えていく必要があり、財源を確保するためにさらなる消費税増税のほか、新たな税制を新設するなども予想されることでしょう。
　日本で消費税の導入が最初に議論されたのは、今から40年前、1979（昭和54）年の大平内閣（内閣総理大臣・大平正芳）の時でしたが、世論からの同意が得られず、消費税導入を訴えた自民党は選挙で敗北し、消費税議論は消え去りました。それから8年後の1987（昭和62）年、中曽根内閣（内閣総理大臣・中曽根康弘）の時も消費税の導入案が国会に上程されましたが、世間からの激しい批判でやむなく廃案となりました。
　そして1988（昭和63）年、竹下内閣（内閣総理大臣・竹下登）の時代、ようやく消費税率３％での導入が実現しました。それまで厳しい世論の向かい風が吹いていましたが、当時の日本はいわゆるバブル景気の興奮が最高潮の中での強行だったため、まさに“イケイケ”の時代だったことが消費税導入の実現につながったのかもしれません。しかし、消費税の導入後にリクルート事件が発覚。消費税増税の批判が再燃したこともあり、竹下内閣は退陣に至りました。
　消費税の歴史を見ると、“消費税に関わると国民から嫌われる”という法則を否定できません。そのため、内閣総理大臣としては「自分が首相の時はやりたくない」というのが本音かもしれません。それでも今の日本は、消費税の増税が首相の使命としてのしかかっているのが実情です。

　このコラムでも以前、他国の消費税事情についてお話したことがありましたが、国民の評価の違いに焦点を当てて改めて見ていきたいと思います。
　日本国民からすると「消費税は高い」という意見も多いのですが、ドイツ、フランス、イギリス、スウェーデンなど、ヨーロッパの消費税率は軒並み20％前後と、日本に比べてはるかに高い税率を導入しています。ヨーロッパ諸国からすれば、日本は多額の財政赤字を抱えながら、なぜ消費税率を8％から10％に上げることについてそこまで大反対するのかが理解しにくいという声もあるようです。
　海外、特にヨーロッパの国々では、なぜここまで高い消費税率が受け入れられているのでしょうか。高福祉国家と言われるスウェーデンを例に挙げてみましょう。スウェーデンでは、幼稚園から大学までの学費や医療費が無料、相続税が無税になるといった教育や医療の分野において若い世代からお年寄りまで、高税率に対する見返りの恩恵を受けているからというのが背景にあります。日本では、北欧の教育や福祉制度についてしばしば“理想郷”のように取り上げられますが、それを支えているのは、高い税金を負担している国民自身であることを理解する必要もあります。
　それに対して日本での消費税増税は、国民に還元されると言うより、国の赤字を穴埋めさせられているという印象が強いのではないでしょうか。「なぜ国の赤字を私たちが負担しなければならないの？」「赤字なら無駄な支出を削るほうが先だろう」といったストレスが批判のもとになっていることは否めません。つまり国民に消費税導入を受入れてもらうには、負担の恩恵をしっかりと提示することが重要な要素のひとつなのです。
　高齢者が今後27年間で約10％増加することを考えると、現状の社会保険制度における負担バランスを保つためには、単純計算で、現在の生産年齢人口7,696万人の10%である769万人の増加が必要であると同時に、今後27年間で減少する生産年齢人口2,112万人を合わせて、約2,881万人の生産年齢人口が必要になります。この不足を補うために移民労働者を受け入れるという議論も上がっていますが、この不足を移民労働者で補うのであれば、2045年には4人に1人が外国人となり、日本国民がそれを受入れられるかという問題が生じます。また、65歳以上の高齢者に働いてもらう取り組みも考えられますが、体力や健康面の限界もあります。
　ITの活用や働き方改革などで生産性の向上が叫ばれていますが、今後ますます、国民一人ひとりがさらに飛躍的に稼げる力を増やす（＝生産性を向上させる）ことが重要になっていくことでしょう。そして、働く人、企業、つまり社会全体が「消費税増税部分を負担しても、なお豊かになろう」という強い意識が必要になります。これをきっかけに、豊かになるための様々なアイデアを実行していきたいものです。