> > 特別連載コラム:~高齢化社会と AI ② AIを用いた快適な移動~
「高齢化社会」というワードを聞くと、私たちは重苦しい気持ちにさせられるものです。そこに経済や介護の問題など、連想されるものがついてくるからかもしれません。しかし、高齢化社会というワードは「高齢者が増えた」ということに過ぎず、勝手にそこに意味をつけてしまっているのです。
その高齢者社会を考えるとき、私たちは「生きることの大切さ」からスタートするべきだと思います。ハーバード大学の心理学教授のロバート・ウォールディンガー氏は、TED「人生を幸せにするのは何?最も長期に渡る幸福の研究から」の中で、過去75年間の研究において、人が何に幸せを感じるのかについて述べています。そこでは、ボストンの極貧環境で育った少年724人を75年間という長期に渡る調査が実施されました。その結果、収入や学習環境があるかないかにかかわらず「周囲の人と質の良い人間関係を構築」できている人はそうでない人に比べて健康で長生きをし、脳の働きも良いことがわかりました。「何かあったときに周囲に本当に頼れる人がいる」と感じている人の脳は記憶がはっきりしていて健康に過ごせているというのです。私たちが高齢化社会を考えると経済的な側面に思考が向かいがちです。しかし、命の大切さという側面から考えていくと、大事なことは高齢者たちが「いかに幸せに過ごせるか」、すなわち「周囲の人と質の良い人間関係を構築すること」を支援することにあるのだと思います。
高齢者たちは孤独だと言われています。近しい人たちが去っていき、体力や気力が落ちて行くと、孤独を感じてしまいます。だから、高齢者たちが豊かに幸せになるための支援として、「外出しやすく様々なコミュニティと触れ合いやすい環境」をつくることも大事かもしれません。テクノロジー進化の著しい今、これまで以上に高齢者が外に出やすくできる技術も大きく進化を遂げています。その技術の現状と効果についてみていきたいと思います。
人手不足の問題
現在、自動車運転の技術はレベル4まで達していると言われています。レベル4は、速度や道路環境、走行区域、気象条件等が限定される条件下においてドライバーを必要としない安全運転を実現することを指し、すでに一部の地域では、ハンドルのない自立走行バス運行が実用化しています。
自動運転のプロセスは、①認知、②判断、③操作という順で進みます。まず、カメラによって歩行者や対向車、障害物、道路標識、といった周辺情報を認知します。その認知情報に基づいて、止まる、避ける、進むといった判断をし、最後にエンジンやブレーキ、ハザードなどを操作します。この3つのプロセスが確実に実施されることで、自動運転に委ねることが可能になります。この自動車運転のプロセスの中で、最も重要なのが認知プロセスです。障害物を認知し走行可能なルートの認識に必要なのが、まさに人工知能(ディープラーニング)です。日照や天候による変化、車速などによって周辺情報は異なって伝達されるため、システムがこれに対応する必要があります。そのため、世界中から周辺環境に関するビッグデータが必要になります。すでに何百万時間、何百万kmもの試運転からの情報が蓄積されており、そのデータをディープラーニングすることによって、かなり必要があります。そのため、世界中から周辺環境に関するビッグデータが必要になります。すでに何百万時間、何百万kmもの試運転からの情報が蓄積されており、そのデータをディープラーニングすることによって、かなり高い精度での周辺環境の認識ができるようになってきています。現状では、レベル4の自動運転の実用化がされはじめており、さらなる実用化が広がっていけば情報蓄積とディープランニングによって、誤った判断をする確率は低くなっていくことでしょう。
アメリカの非営利団体SAE(Society of Automotive Engineers)が
2016年に策定した自動運転のレベル分け
アメリカの非営利団体SAE(Society of Automotive Engineers)が
2016年に策定した自動運転のレベル分け
コスト効果
人手不足によってタクシーやバスの運転手をやる担い手が少なくなってきています。そして、特にタクシー運転手の年間所得は、全産業の約半分であるが労働時間は全産業よりも長いというデータがあります。この、タクシーやバスの運転手の労働環境を考慮すると少なくとも給与の引き上げは求められていくことでしょう。ここで、タクシー会社やバス会社のコスト構成を見てみると、タクシー会社の72.8%、バス会社の56.7%が人件費となっています。
主たるコストである人件費が上がっていくであろうことを考慮すると、タクシー会社やバス会社の経営は厳しさを増して、人口が少ない地域などの撤退や廃業が相次ぐことが想定されます。しかし、これらの運転が自動運転に切り替わったとしたらどうでしょうか?
理論上は利用料金を半分にしたとしても運営会社に利益が残ります。そうすると、過疎地域へのサービスを継続できて、高齢者の移動の気軽さを創り出すことが可能になるでしょう。
高齢者の移動手段
65歳以上の運転免許の自主返納件数が増加しています。今後も増加が予測される免許返納者の受け皿として高齢者の移動手段の確保が急務となっています。
現在、地域の公共交通機関としてバスが高齢者の生活の足を提供、特に免許を持たない高齢者にとって重要な鍵となっています。ただし、内閣府のアンケートによると、高齢者が外出をする時の障害となる方法のアンケートの第3位に「公共交通機関の使いづらさ」というのがあげられています。
もし、前述のようにテクノロジーの進化によって、バスの便数やルート数を増やすことができれば利便性は増すことでしょう。さらに、自動運転の技術が高まっていけば「運転免許」の概念も大きく変わっていくことでしょう。そもそも、高齢者は身体の衰えによって運転をすることが困難なため、運転免許を返納しています。しかし、AIが運転をしてくれるのであれば、運転の主体者はAIであり、人間ではなくなることになります。運転免許を持たなくても、自己所有の車で、一人で目的地にいくことも可能になるかもしれません。
「生きることの大切さ」から高齢化社会を見ていくと、どう人やコミュニティと触れ合っていくかが大切なテーマになることが分かります。そこに、移動手段としてのテクノロジーの進化が大きく貢献していく時代が訪れようとしています。激動の時代においては、真理を求めることが大切です。新たなビジネスを創っていくうえで、「豊かさや幸せとは何か?」のテーマから取り組むことが、激変する環境状況にブレずに進められるポイントかもしれません。
「生きることの大切さ」から高齢化社会を見ていくと、どう人やコミュニティと触れ合っていくかが大切なテーマになることが分かります。そこに、移動手段としてのテクノロジーの進化が大きく貢献していく時代が訪れようとしています。激動の時代においては、真理を求めることが大切です。新たなビジネスを創っていくうえで、「豊かさや幸せとは何か?」のテーマから取り組むことが、激変する環境状況にブレずに進められるポイントかもしれません。
■執筆者 上田 智雄(うえだ ともお)
1975年生まれ。税理士。いっしょに税理士法人(渋谷区恵比寿)代表社員、デルソーレ・コンサルティング株式会社 代表取締役。主な監修本に、『納税で得する一覧表』、『取り戻せる税金一覧表』、『人生の節目の書類書き方教えます』(以上、サプライズBOOK)などがある。