政府主導でキャッシュレス化を進めるには二つの要因があります。その一つ目に2019年10月の消費税率10％への引き上げが考えられます。政府は増税による消費低迷を抑制する景気対策として、ポイント還元制度を実施することになっています。消費者がキャッシュレス決済で支払いをしたら、購入額の最大５％分のポイントがもらえるようになります。そして中小企業や個人事業主はキャッシュレス決済の必要端末を購入する場合の補助金も受け取ることもできます。
　そしてもう一つ。2020年の東京オリンピックです。政府はオリンピックで年間4,000万人を超える訪日外国人の数を予想しています。現時点で訪日時に外国人が掲げる不便さとして現金決済が上位にランクインしていて、観光立国を掲げようとしている日本にとって、キャッシュレスは外貨獲得に欠かせない武器と捉えられています。
　2018年9月からは、イオングループでは手の静脈認証で、財布はおろかスマホやカードを持たずに手ぶらで買い物ができる仕組みの実験がスタートしています。
　買い物をする人の身体情報と銀行の口座情報をリンクさせることで、人そのものがお財布になり、かなりの利便性が広がっていくことになるのです。
　こうして、官民一体となって大々的な普及キャンペーンが実施されれば、これを当然とする文化が形成されていくでしょう。
　その中で、キャッシュレスが常識となれば、現金主義というある種のマイノリティが発生し、そこには一つの生き方が浮上していくこととなります。ここに時代に乗り遅れたという情報弱者という観点ではなく、主体的にこれを選択するという生き方もあるかと思います。ここでは、このマイノリティの主張を想定してみたいと思います。

　2018年11月、国会にてサイバーセキュリティ担当の桜田大臣が「自分でパソコンを打つことはありません。」と発言をし、これに対して日本のマスメディアはもちろん、米ニューヨークタイムズや英ガーディアン紙などは、これを皮肉った記事を書いていました。
　ところが、仏AFPメディアの記事は違った視点をもっていました。
　ある意味本質をついた意見かもしれません。私たちのお金を奪われない、情報を人に知られたくないというプライバシーの視点からすると、圧倒的に安心なのがアナログで在りつづけるということなのでしょう。

　キャッシュレス決済から見える未来には、ユーザーの決済履歴をはじめとする様々な個人情報を企業が分析、集積することにより、個人の信用度を表現することが可能になります。
　その信用度ランクが高いユーザーは、企業サイドからしてみればとてもよい消費者なので企業は多くの特典を付与していきます。その恩恵を受けるために、ユーザーはランクを上げる行動を常にこころがけるようになるのです。
　お金を使うたびに誰かに評価されているというのは、少し煩わしい気持ちにもなりますね。そういう思いから、キャッシュレスを嫌う動きもあることでしょう。

　ミクロネシアのヤップ島というところにフェイトいう巨石があります。これがお金の起源と言われているそうです。巨石は直径で3m、重さも2.3tほどもあるものもあるそうです。この巨石は大きくて持ち運ぶことはできませんが、ここにアワビ２個、パイナップル１個と刻んでお互い取引を記録していったそうです。
　その後、時代の変遷とともにお金のカタチは変化していきました。そして昨今、お金はクレジットカード、電子マネー、ＮＦＣ、キャリア決済、ＱＲコード、、、と、利便性を追求してもの凄い勢いでそのカタチを変え続けているのです。
　その一方で、あえて時代が提唱する利便性よりも「使わないことの自由」を享受することを選ぶという生き方もあるのだと思います。いわゆる現ナマを手渡しで行うことによって商品やサービスへの感謝を示せるという「自分らしい感覚をもっている」と感じることも一つの選択かもしれません。