ここではキャッシュレス店舗のメリット・デメリットを見ていきたいと思います。

　野村総合研究所の2018年１月発表の「現金・キャッシュレス決済に関するアンケート調査分析」によると、レジの現金残高の確認作業に、レジ1台で平均30分/１日かかっており、1店あたりになると平均153分/１日を費やしているというデータがあります。キャッシュレス化は、この時間を削減します。
　この調査によると、中小企業では、現金関連の作業人件費が売り上げ全体の0.51％を占めるといわれています。そして、日本全体ではレジ締めの人件費で年間5、000億円かかっているという話もあります。キャッシュレス化への期待は大きいです。

　平成30年10月総務省は、日本が８年連続の人口減少している統計を発表しました。
　飲食店や小売店においては人手不足が続き、従業員の人数がボトルネックとなって経営に深刻なダメージを生じさせています。
　さらに、ネット通販やホームエンターテイメントが盛んになってきている昨今、店舗での買い物や外食は減る傾向にあり、ノンストアの時代に向かっているという話もでてきています。そこで、レジ工数の削減によって人員不足を補うほか、新たに捻出した人員をお客様との会話や演出に充てていくことで、新しいサービス業態を創ることも可能になります。

　にわかに信じがたい事実ですが、飲食店・小売店におけるレジ現金の従業員による盗難トラブルはかなり多いものです。特にレジの空打ちや釣り銭の着服などに関する不正は目につきにくいため発見が遅れ、気が付いた時には被害額が大きく膨れ上がっていることもあります。
　キャッシュレス店舗にすることで、現金との接触を避けることでトラブルを防止し、お互い仕事を気持ちよくできる環境をつくれます。

　現在の日本人は、現金払いを好む傾向にあり、その理由の多くは「目に見えて使えるので安心できる」といった慣れによるものが多いようです。これからキャッシュレスの利便性に触れることで変化はあると思いますが、そこは人の価値観です。現金払い以外が嫌な人にとってみれば、キャッシュレスは受け入れられず店舗においては、一定数の顧客を失うことにつながります。
　日本銀行の調査によると70歳以上の49%、60歳代の28%がキャッシュレス決済を利用していないという回答をしています。特にシニア層を顧客として抱える店舗は、キャッシュレス化にはそれなりの覚悟が必要です。

　アメリカではペンシルバニア州のフィラデルフィア市で、キャッシュレス決済しか認めない「現金お断り」店を禁じる条例案が成立しました。違反した店舗は、2,000ドル(約22万円)を上限に罰金が科せられることになります。
　この動きは、ニューヨークやワシントンDC、サンフランシスコなどの大都市でも法案が議論され始めているそうです。これは、アメリカの貧困層の多くはクレジットカードのみならず銀行口座すら持っておらず、現金での支払いを拒否することが貧困層への差別なのではないかという主張に端を発したものです。
　近い将来の日本では、現金取り扱いに関するさまざまな業務効率化とコスト削減が実現されれば、キャッシュレス店舗がいたるところに増えてくる可能性があります。その一方でこれがアメリカと同様にIT弱者や銀行口座を持てない人たちを差別する社会問題へ発展していく可能性もあります。